化学合成から特許まで、創薬に役立つ幅広い情報を提供してくれる SciFinderⁿ
CAS SciFinderⁿ (サイファインダー・エヌ) ユーザーインタビュー
2021年3月掲載
カルナバイオサイエンス株式会社 研究開発本部 創薬研究ユニット
川畑 亘さん
志水 朋洋さん
新井 真以さん
SciFinderⁿ を実際に使用した感想や活用法について、2020 年 12 月に開催した SciFinder フォーラムのトークセッションにて、カルナバイオサイエンス株式会社 研究開発本部 創薬研究ユニットの皆様に伺った内容をご紹介します。
成長著しいキナーゼ創薬のスペシャリスト企業
——初めに、会社概要や皆様の業務内容について紹介をお願いします。
川畑さん:カルナバイオサイエンスは、元々は大阪にあったカネボウの医薬研究所でしたが、1999 年にオランダの製薬企業オルガノンの日本法人に譲渡された後、2003 年にスピンオフベンチャーとして神戸市ポートアイランドの医療クラスターにて創業しました。
業務内容は日本オルガノンの主要技術であったキナーゼの技術を継承する形で、キナーゼを用いた創薬支援事業、およびキナーゼ阻害剤を創出する創薬事業の、二本柱で事業を行っています。
創薬支援事業では、お客さまの創薬研究に使っていただくキナーゼタンパク質の製造・販売および化合物のキナーゼ阻害評価試験の受託を行っています。現在、世の中で知られているキナーゼの数は五百数十あると言われていますが、弊社では現時点で 362 種類を供給しています。また、そのうち 337 種類のキナーゼに関して、アッセイの受託が可能です。その他、標的タンパク質を発現させた細胞を用いて生細胞内でのタンパク質相互作用を評価するアッセイの提供も行っています。
続いて、我々 3 名が所属している創薬事業では、キナーゼ創薬に特化した医薬品の探索研究を行っています。この創薬事業は、2008 年に化学合成研究を担当するケミストと、薬理研究を担当するバイオロジストのみで事業をスタートしました。その後、薬物動態グループや臨床開発グループを創設し、2015 年には Johnson & Johnson 社にキナーゼ阻害薬プログラムを導出し、2019 年には Gilead Sciences 社と新規がん免疫療法の研究開発に関するライセンス契約を締結することができました。
また最近のトピックスとしては、2020 年に、開発中の BTK 阻害剤、AS-0871 の臨床試験を開始する事ができました。弊社は元々創薬のベンチャー企業でしたが、今や臨床試験段階のパイプラインを持った製薬企業へと成長したという自負もあります。
- 全て自社内で製造された約 450(変異型含む)の高品質蛋白質製品を品質データを添えてご注文を頂いてから 2 - 3 日でお届け致します。
- 自社内でクローニングしたキナーゼ遺伝子を昆虫細胞や大腸菌に導入し、発現・精製した活性を有するキナーゼ蛋白質(アッセイグレード)は 5 ug の少量包装から mg 単位のバルクサイズまで幅広いご要望にお応えしてご提供可能です。
SciFinderⁿ に付属した多様な機能を活かして
——SciFinderⁿ を導入したきっかけを教えていただけますか?
川畑さん:弊社は 2008 年に創薬事業を開始して以降、従来の SciFinder を利用してきました。一時期、他社の反応データベースを契約し使用していましたが、2019 年に SciFinderⁿ のトライアルの機会をいただきました。その中で、Retrosynthesis Planner という他製品にない新しい機能に魅力を感じました。また、SciFinderⁿ と当時使っていた他社製品を比較し、SciFinderⁿ が良いという声が多かったため、SciFinderⁿ の利用を開始しました。SciFinderⁿ に標準搭載されている PatentPak は、使えば使うほど素晴らしい機能だと感じています。
——PatentPak が役立った具体例を教えていただけますか?
川畑さん:良いと感じているのは、情報へのアクセスの速さです。今までは特許明細書を読む際、PDF であればスクロールをして、紙であればページをめくりながら、明細書中の化学構造式を見て化合物を探すことが必要でした。さらに、化合物が構造式ではなく名称で羅列されている場合は、確認に時間がかることもありました。PatentPak では明細書中の物質記載位置がすぐに分かりますし、名称で記載された物質の構造式も表示されるため、確認にかかる時間が短縮され、助かっています。また、ケミストではない情報担当者が特許明細書を読むこともあり、記載物質の把握が困難なこともありました。PatentPak が利用できるようになったことで、構造式や化合物の命名にそれほど詳しくない者でも記載物質の把握が容易になったと感じます。PatentPak に表示される構造式は、CAS の科学者が特許明細書を人手で読み、正確に入力されていると伺いました。大変感謝しています。
SciFinderⁿ は正解だけではなく、思いつかない代替ルートも教えてくれる
——業務において、SciFinderⁿ をどのように活用されているか教えて下さい。
川畑さん:私共は SciFinderⁿ を創薬研究の中でも化合物の探索合成研究に活用しています。創薬研究を進めていく手順の一つとして、HTS(ハイスループットスクリーニング)を行います。HTS では数万もの化合物に対して同時にアッセイを行い、活性の有無を調べます。次にそこで活性があった ヒット化合物を元に構造を最適化し、リード化合物さらには薬へと導いていきます。SciFinderⁿ は、この “ヒット to リード” の方針決定に用いられます。
まず、スクリーニングでヒットしてきた化合物の中心構造を SciFinderⁿ で部分構造検索します。この検索結果で多くの化合物が表示された場合、その部分構造を持つ化合物群はすでに世の中で知られている化合物であることを意味します。世の中で知られている化合物で、かつ、いろいろな薬理活性が報告されているものであれば、検索結果に文献等の情報が出てくるはずです。その場合、そのヒット化合物もしくはそれに非常に近い化合物がすでに世の中で薬として開発されている(もしくは開発過程にある)という事が予想されます。このため、このヒット化合物を最適化することは我々にとって後追い研究になってしまいますので、優先順位を下げます。逆に、ヒット化合物の中心構造を SciFinderⁿ で部分構造検索しても検索結果が得られなかった場合、このヒット化合物は新規性の高い化合物であると予想されるため、積極的に最適化研究を進める判断をします。
しかし、ヒット化合物の新規性がそれほど高くない場合でも、最適化研究を行う事があります。例えば、新規性が高くないヒット化合物の中心構造がベンゼン環を有していた場合、このベンゼン環の部分をヘテロ環に描き換えて、再度、SciFinderⁿ で部分構造検索を実施します。その時に検索結果がゼロとなるのであれば、ベンゼン環をヘテロ環へ改変する事により、より新規性の高い化合物へと導くことができると予想でき、ベンゼン環に代えてピリジン環やピリミジン環を導入するという構造最適化方針を決めることができます。
最適化の方針を決めた後は、実際に合成を進めます。その際も、SciFinderⁿ の反応検索を使って、そのものの反応や類似反応の実験項情報(Experimental protocols)を参考にし、化合物を合成します。
実験項情報は従来の SciFinder から活用していましたが、SciFinderⁿ になり、Elsevier、RSC、そして Wiley など、化学系主要誌に関する実験項情報も追加で確認できるようになり、重宝しています。
新井さん:私は試薬カタログとしても使用しています。今までは各試薬メーカーのサイトで欲しい試薬名や CAS RN®(CAS 登録番号)から検索していました。SciFinderⁿ で検索すると、国内メーカーだけではなく輸入品も含めて、一覧で値段・容量・納期を比較することができます。その中から目的に合ったもの、例えば、より納期が早いものであったり、より安価なものであったりを選んで購入するために使っています。
志水さん:私がよく使うのは、反応検索です。絞り込みのフィルターには反応に関与しない官能基や、溶媒、触媒などの情報が表示され、そこから選ぶことで絞り込みやすくなりました。例えば、目的の化合物に様々な官能基がある場合、適用できる試薬や溶媒を単純には判断できないこともあります。その場合、これなら他の官能基に影響しないだろうと予想されるものを選んで絞り込み、実験項を確認することでさらに自信を持って反応を仕込めるようになりました。これが私にとってのメリットです。
SciFinderⁿ は費用対効果が大きい、業務に必須のツール
——貴社内で SciFinderⁿ をどのように評価されていますか。
川畑さん:SciFinderⁿ は CAS が作成した検索ツールですので、収載される化合物数が圧倒的に多いことは高く評価しています。検索するにあたり、母数が多いので取りこぼしもなく、情報をしっかり拾ってくることができて大変助かっています。ただし情報が多いと、それを精査する検索技術も必要になります。従来の SciFinder は絞り込みが難しかったのですが、SciFinderⁿ は、フィルターによる絞り込み機能が充実しており、欲しい情報だけを集めることに長けていると感じます。
新井さん:私も同意見です。反応検索や試薬を検索する機能もそうですし、他には、今後どのようにプランを進めるか考える際、その手間や時間が節約できる点において、費用対効果は大きいと感じています。
志水さん:私にとっても総合的に見て役に立っており、仕事を進める上で必須なツールと感じています。
——SciFinderⁿ への、今後の期待などをお聞かせください。
川畑さん:HTS で得られたヒット化合物や既存の化合物がどのような生理活性を示すか調べる際に Bioactivity Indicators を、どのような受容体や酵素に作用するか調べる際に Target Indicators を活用しています。
これらの機能についてデータをより細分化をしてもらえると助かります。例えば、Bioactivity Indicators にて "Antiproliferative agents" と表示される場合、抗がん剤としての試験が行われていると思われますが、そのがんが肺がんなのか血液がんなのかどの臓器のがんなのか、またはどのがん種(細胞株)なのか等が表示されることを希望します。また、上記のような生物系の実験や薬理試験に対しても、使用した細胞種、培養条件や検出方法等が "Experimental protocols" として収録されれば、バイオ・薬理系業務担当者にも利用が広がるとのではないか感じています。
ユーザー紹介
カルナバイオサイエンス株式会社
〒650-0047
神戸市中央区港島南町1丁目 5 番 5 号
神戸バイオメディカル創造センター 3 階
カルナバイオサイエンスは、2003 年の創業以来、キナーゼ阻害薬等の低分子医薬品の研究開発に特化し、がんや免疫炎症疾患など、アンメットメディカルニーズに応える画期的な新薬創製に取り組んでいる。また、創薬研究に不可欠な高品質なキナーゼタンパク質やアッセイキットをはじめ、低分子化合物のキナーゼに対する阻害作用を解析するプロファイリング・スクリーニングサービスなど、幅広い技術・製品・サービスの提供を通して国内外の製薬企業や研究機関の創薬研究を支援している。
「カルナ(Carna)」はローマ神話の「人間の健康を守る女神」です。また「身体の諸器官を働かせる女神」、「人間生活の保護女神」などとも言われています。
当社は生命科学「バイオサイエンス(Bioscience)」を探究することで「人々の生命を守り、健康に貢献することを目指す。」ことを基本理念としています。当社はまさに「カルナ(Carna)=人間の健康を守る女神」でありたいと考えています。
CAS SciFinderⁿ (サイファインダー・エヌ) は、研究者が必要とする科学情報を、高度な検索エンジンとシンプルで使いやすいインターフェースより、最短ステップでご提供する検索ツールです。論文・特許に加えて、世界中の化学物質および化学反応情報を網羅的に検索できます。