化学情報協会

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とても温かい雰囲気のあるプログラムだと感じました

2016 SciFinder Future Leaders プログラムに参加して

2017 年 1 月掲載

東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 博士後期課程 相田研究室

茂垣 里奈 (もがき りな) さん

SciFinder Future Leaders は世界中の情報検索に興味があり SciFinder を日々活用している化学分野の博士研究員・大学院生を対象とした情報交換プログラムです。

CAS 本部にて 2016 SciFinder Future Leaders プログラム参加メンバー (茂垣さんは 1 列目左から 3 番目)

米国化学会の情報部門 CAS が主催する 2016 SciFinder Future プログラムが 2016 年 8 月、米国オハイオ州コロンバスで開催されました。多くの応募者の中から2人の日本の大学院生も選出されました。プログラムに参加した東京大学の茂垣さんに、プログラムについて伺いました。

——茂垣さんの研究テーマとSciFinderの利用方法を教えてください。

茂垣さん: タンパク質、核酸、脂質といった生体分子の機能制御を指向した刺激応答性高分子の開発を行っています。SciFinderは主に化合物や反応の検索に使っています。

Mogaki, Rina; Okuro, Kou; Aida, Takuzo. Molecular glues for manipulating enzymes: trypsin inhibition by benzamidine-conjugated molecular glues. Chem. Sci. 2015, 6, 2802-2805.

——プログラムに申し込まれたきっかけと動機を教えてください。

茂垣さん: Chem-Station で昨年度の参加者である中島さんのインタビュー記事や過去に参加された方々のインタビューも拝見し、大変魅力あるプログラムだと感じました。また、ちょうど修士論文の発表会が終わった後で、博士課程に進学するに当たって何か新しいことに挑戦してみたいと思い応募しました。

——プログラムへの参加決定後、周囲からはどのような反応がありましたか?

茂垣さん: 指導教官である相田卓三先生やスタッフの方々からは、「良い経験をしてきてください」と言われました。友人などには応募したことを言っていなかったので、羨ましがられました。

——11日間のプログラムのスケジュールを教えてください。

茂垣さん: オハイオ州コロンバスに到着後、翌日からプログラムが始まりました。2~5 日目は、CAS本社にて組織・製品の紹介、ビジネスゲーム(新商品の企画とプレゼンテーション)、未発表製品の体験とそれに対する意見交換、データベースの作成過程やデータセンターの見学などを行いました。また、オハイオ州立大学にある自動車関係の研究所や、科学系ベンチャー企業を支援する会社の見学にも行きました。
その後、フィラデルフィアへ移動し、翌日から米国化学会の年会に参加しました。こちらは自由行動でしたので、興味がある講演を聞いて回りました。11日目にフィラデルフィアを出発し、帰路に着きました。

—— どのような方が参加されていましたか?

茂垣さん: アメリカ、イギリス、日本、中国、フランス、スイス、スペイン、ドイツ、ノルウェー、カナダ、プエルトリコ、韓国、シンガポール、台湾、インド、オーストラリア、ブラジルの計17カ国から総勢26人の博士課程学生とポスドクが参加していました。
皆さん化学を専門にしていることは共通していましたが、分野は超分子化学、天然物合成、ケミカルバイオロジー、触媒や反応開発、計算化学など研究内容は多岐に渡っていました。複数の国での研究経験がある人が多く、本プログラムでも皆さん、他の参加者との交流にとても積極的でした。

——CASでのディスカッションの様子を教えてください。

茂垣さん: 始めに実際にアメリカで放映されているテレビ番組を真似て、新商品の企画を行い出資を募る、というビジネスゲームを3グループに分かれて行いました。CASのイノベーションチームのスタッフからゲームの進め方の説明があり、それに沿った形で商品の特徴やセールスポイントから、市場規模や今後の事業展開に至るまで白熱した議論が交わされていました。企画のプレゼンテーションではCASスタッフ数名が審査員として参加し、実際の番組のように活発な質疑応答が行われ、私のグループはスマートグラスのような実験用防護メガネを提案し、優勝することができました。
次に、2グループに分かれて論文の検索方法と新製品SciFinderⁿの体験版に対する意見交換を行いました。前者では、論文の引用・被引用関係をどのような場面で意識するかまた、研究の各段階においてどのような論文を探すかなどに関して意見を交換しました。後者では、実際にSciFinderⁿのテストページを見ながら、デザインや仕様に関して改善すべき点などを提案しました。
また、SciFinderⁿと別の新製品2つを実際に使用し改善点や疑問点などを議論しました。1つは、有機化学を学びながらSciFinderの活用方法を学ばせる学部生向けのツール。そしてもう1つは、投稿論文の審査を行う上で必要となる知識、確認すべき点などを学べるウェブコースでした。どちらも、良い点、改善すべき点に関して参加者から様々な意見が提案されました。また、Inorganic ChemistryのEditor-in-ChiefであるDr. Tolmanが論文投稿とプレゼンテーションに関する大変すばらしい講義をしてくださり、こちらも大変白熱した質疑応答が行われました。
特に印象的だったのはDr. Tolmanの講義で、論文投稿に関する裏話やEditorが見ている点といった、普段聞くことができない話を伺うことができた事です。論文執筆・投稿に関して疑問に思っている点や気にする点がそれぞれの分野によって違うというのが大変興味深く、勉強になりました。またSciFinderⁿに関する意見交換を行った際に重視する点や希望する改善点について、デザイン一つとってもさまざまな意見があり、こちらもとても興味深かったです。

——CASスタッフにどのような印象を持たれましたか?

茂垣さん: CASスタッフの皆さんが参加者との意見交換に大変積極的で、とても熱意を感じました。どんな些細な意見でも必ずメモを取り、利用者の意見を生かそうとしてくれようとしているのだと感じました。

——今回のプログラムでSciFinderやCASのデータベース作成など、情報検索において新たな知見は得られましたか?

茂垣さん: 実際のデータベース作成過程を見学しました際に、論文や特許内の情報の整理から化合物や反応の入力までがすべて人の手で行われており、その作業を行っている人の多くがかつて研究に従事していたPh.D.の方々だということに大変驚きました。

——ディスカッション以外のアクティビティはいかがでしたか?

茂垣さん: 初日には、コロンバスで開催されていたIFLAという学会の見学に行きました。普段行くことのない分野の学会でしたので、ポスターや展示内容がとても新鮮でした。
また、毎日CASでのプログラム終了後は、オハイオスタジアムやフランクリンパーク、COSI(科学博物館)へディナーに行きました。それぞれにCASスタッフの方々も参加してくださり、参加者も含め存分に交流できました。コロンバス最終日にはハンチントンパークで野球観戦もしました。その際、お世話になったPeterさんとSherriさん、Robさんにプレゼントを用意し、皆でサインをして渡しました。

——フィラデルフィアで開催された米国化学会秋季年会はいかがでしたか?

茂垣さん: 超分子化学やケミカルバイオロジーの著名な先生の講演を多数聞くことができました。空き時間には企業展示にも行きました。この年会は夜にもイベントが多く、Sci-Mixというドリンクやスナック付きのポスター発表、サイエンス・コミュニケーションのコンテスト、ChemDraw Cloudの発表パーティなどたくさんのイベントに皆さんと参加しました。

——米国化学会秋季大会についてご感想をお聞かせください。

茂垣さん: アメリカの大学以外からも多くの教授が講演を行っているというのが印象的でした。講演以外にも、朝から夜まで終日多くのイベントがあり、大変規模が大きい学会でした。

——様々な国からの参加者との交流はいかがでしたか?良い関係を築けましたでしょうか?

茂垣さん: 大変楽しめましたし、とても良い関係が築けたと思います。バス移動や食事の際に話すだけでなく、一日が終わった後、皆さんと連絡を取り合い飲みに行ったりしました。各国の研究事情や、それぞれのキャリア、今後の将来設計からプライベートなことまで、多くのことを語り合いました。最終日に別れる際は、また学会などで会おうと約束し、帰国してしばらく経っても、日々連絡を取り合っています。

「後日談:参加して半年ほど経ちますが、プログラムで知り合った方とは、今でも連絡を取り合っています。」

——CAS の参加者に対する姿勢はいかがでしたか?

茂垣さん: オーガナイザーであるPeterさんが、「CASの社員もこのプログラムを毎年楽しみにしている」と言ってくれていました。実際にディスカッションではスタッフの熱意をとても感じましたし、我々のポスターセッションにも多くの方々が来場してくださいました。とてもウェルカムな雰囲気を感じました。また、すべての準備を行ってくれたPeterさんとSherriさんには、渡航前から滞在中、帰国後も大変良くしていただきました。2人のおかげで、安心して参加することができました。

——このプログラムを経験したことでご自身の中に変化はありましたか?また今回の経験を将来どのように生かしていきたいですか?

茂垣さん: 世界中から集まった参加者の方々と交流したことで、様々な国での研究生活を知ることができ、視野が広がりました。同時に海外へ行くハードルが下がったように感じ、博士課程の間に留学などにも挑戦してみたいと思うようになりました。また、日本では「博士号=研究者」というキャリアを思い描きがちですが、CASで研究者という立場以外から化学に携わるPh.D.の方々を多数拝見できたことも新鮮でした。

——次回のプログラムに参加しようと考えている学生・博士研究員にメッセージをお願いします。

茂垣さん: 普段の研究生活では得られない貴重な経験ができるだけでなく、世界中の参加者と良き友人関係を築くことのできる大変楽しいプログラムです。渡航に必要なことはすべてCASが手配してくれますし、少しでも興味があれば是非応募してみてください。

——上記項目以外で、強く印象に残ったことなどはありますか?

茂垣さん: このプログラムは、参加した後も参加者をフォローしてくれると点がとても良いと思います。たとえば、現地配布のプログラム冊子には、プログラム後半の米国化学会年会で発表する参加者の発表日・時間・会場などが掲載されていました。さらに今回の参加者だけでなく、過去のプログラム参加者の分まで入っていました。卒業生の方々も新しく入ってくるメンバーと交流したいと話してくださっており、とても温かい雰囲気のあるプログラムだと感じました。
数年に一度、過去の参加者を再びオハイオに招待してくれる年があるようです。滞在時の待遇もとても良く、オハイオ・フィラデルフィア共に宿泊したホテルも非常に良いホテルでした。もし招待があれば、是非また行ってみたいです。

——プログラムに対するご意見・ご要望などありましたらお知らせください。

茂垣さん: プログラムの参加者に選出されたとメールをいただいた時には、既に米国化学会年会の発表申込が締め切られていました。せっかく参加するなら発表もできたら良いと思うので、そこを改善していただけると幸いです。
JAICI: どうもありがとうございました。

CAS について

CAS (Chemical Abstracts Service) は米国化学会 (American Chemical Society) の一部門で、世界各国の科学雑誌、特許、その他資料から化学関連文献の索引・抄録を作成・提供しています。本拠地は米国オハイオ州コロンバスで従業員数は約 1、400 人です。編集スタッフは 600 人おり、うち 400 人が化学もしくは関連分野の博士号を有しています。 
CAS は冊子体 Chemical Abstracts (CA) からオンラインデータベースへと時代に合わせてシステムを進化させながら、世界中の科学者の研究・開発活動をサポートしています。