将来を担う同世代の研究者と友人になれて幸運でした
2019 CAS SciFinder Future Leaders プログラムに参加して
2019 年 11 月掲載
九州大学大学院工学府材料物性工学専攻 博士後期課程 片山研究室
佐々木 光一 (ささき こういち) さん
米国化学会の情報部門 CAS が主催する 2019 CAS Future Leaders プログラムが 2019 年 8 月、米国オハイオ州コロンバスで開催されました。多くの応募者の中から今年も日本の大学院生が選出されました。プログラムに参加した九州大学の佐々木さんに、プログラムについて伺いました。
——佐々木さんの研究テーマと SciFinder の普段の活用法を教えてください。
佐々木さん: 血中に多く存在するタンパク質である血清アルブミンと抗体に着目し、それらを上手く活用したがん治療法に関する研究をしています。SciFinder は、研究全般に関する情報収集に使用しています。
——プログラムに申し込まれたきっかけと動機を教えてください。
佐々木さん: プログラムのことは、CAS から送られてきた宣伝メールで知りました。以前 ACS 系のジャーナルに投稿した経験があったためだと思います。将来は PI (Principal Investigator) として研究できればと考えており、同じ志を持った友人を作るチャンスとして、万が一選ばれたら良いなという気持ちで申し込みました。
——プログラムへの参加決定後、周囲からどのような反応がありましたか?
佐々木さん: 研究室の皆さんにお祝いの言葉をいただきました!研究室 OB の方々も、何処かから伝え聞いたらしく祝福のメッセージを下さり、感謝と共に大変驚いたことを覚えています。
—— どのようなプログラムでしたか?
佐々木さん: プログラム前半は、様々なスキル・知識を養うセミナーで構成されていました。具体的には、物語を伝える技術、研究に関する洞察力、教育する・される上で重要な姿勢、研究者としての社会・メディアとの関わり方などです。その合間で CAS の訪問は勿論のこと、Center of Science and Industry の訪問、野球観戦、更にはがん治療を乗り越えた方からお話を聴く機会もありました。後半は比較的自由で、米国化学会年会 258th ACS National Meeting & Exposition に参加し発表を聞いて回りました。また、プログラム全体を通して参加者間の交流を促進する機会が豊富に組み込まれていたので、最後には皆すっかり仲良くなっていたと思います。
——参加メンバーについて教えてください。
佐々木さん: アメリカ、ロシア、カナダ、スイス、イギリス、韓国、ベルギー、メキシコ、オーストラリア、中国、スペイン、インド、ドイツ、オランダ、南アフリカ、日本と世界各国から合計 29 名の博士課程学生・ポスドクが集まっていました。専門領域は有機合成系の人がやや多かったようですが、バイオ、計算化学、AI、更には衣服に用いるマテリアルの研究など多岐にわたっていました。多くのメンバーは企業や研究機関でリーダーとして研究することを目指しており (参加時点で既に PI ポジションが決まっている人もいました)、極めて高いモチベーションを持った人達で構成されていました。
——どのようなディスカッションが行われましたか?
佐々木さん: CAS のスタッフから講義を受けた日もありましたが、基本的にはテーマに応じてそれに特化した方々を講師として招いての研修が多かったです。グループ分けはランダムで、全体もしくは小グループに分かれてのディスカッションが毎日行われました。講師が進行や議論のファシリテーターを務めてくださったおかげで、スムーズに参加できました。皆、少しでも何か学び取ろうと真剣にディスカッションしていましたが、フレンドリーな参加者が多かったため、程よくリラックスした雰囲気で終始進みました。
——ディスカッションで印象に残っているトピックスをご紹介ください。
佐々木さん: 特に、初日の Storytelling のセッションが印象的でした。研究内容を伝えることは研究者の重要な仕事の一つですが、このセッションは、論文や学会発表として情報を発信する場と異なり、魅力的に話を伝えることに主眼を置いたものでした。専門家以外の方々に興味を持ってもらったり、投資を募ったりする場面では特に重要なこのスキルですが、論文・学会発表時に必要な技術とは異なる考え方が根底にあり、習得には訓練が必須であることを痛感しました。
——ディスカッションで、佐々木さんにとって新たな発見はありましたか?
佐々木さん: 研究および研究者自身が世間からどう見えているか理解し、改善し続ける必要がある、という考えを持って、研究者の側から進んで歩み寄っていく動きが、特に欧米で大きくなっていることを知りました。遺伝子組み換え食品や気候変動、ワクチンなどに関しより多くの人々に理解してもらうために、研究者はどう振る舞っていくべきか考え、練習するセッションがあったのですが、多くの人が熱く盛り上がっていました。サイエンスに関する理解を広めたい、という気持ちを持った参加者が多かったのだと思います。そのセッションの講師、Kate Biberdorf 教授も極めて情熱的な方で、私がこれまで出会った中で最も明るい人物でした。
——CAS スタッフとのディスカッションについて、どのような印象を持たれましたか?
佐々木さん: 過去に参加された方々と同じ意見です。CAS スタッフの皆さんの、SciFinder をはじめとする製品やサービスをより良くしたい、という姿勢がディスカッションを通じて伝わってきました。参加者は質問される形で製品に関する意見を出していったのですが、本音を引き出す鋭い質問が多かったです。
——今回のプログラムで SciFinder や CAS のデータベース作成など、情報検索において新たな知見は得られましたか?
佐々木さん: 化合物に関する情報が人手で入力されていることには、やはり驚きました。また、SciFinderを運営している CAS 本部のサーバールームや作業場などを実際に見ることができたのは貴重な経験でした。
——ディスカッション以外のアクティビティはいかがでしたか?
佐々木さん: 夕食会やイベントが毎晩準備されており、参加者への暖かいもてなしと、互いに親交を深める機会を最大限に活用してほしいという CAS のスタッフの気持ちを常に感じていました。タイムスケジュールは徹底して周知していただき、会場の移動も全て手配されていたので快適でした。
——米国化学会秋季大会では何をされましたか?
佐々木さん: 学会中は、聴きたい講演に参加し、合間で自分の仕事をしたり、仲良くなった参加者と食事に行ったり観光したりしていました。
——米国化学会秋季大会についてご感想をお聞かせください。
佐々木さん: 超大規模な学会で、専用のアプリなしでは聴きたい発表のスケジュールを組んで会場にたどり着くのも難しいほどでした。また、ACS だけでなく化学系企業、出版社が本気で協力して作り上げられた学会で、今までにない体験でした。例として、求職中、求人中といった自分のステータスを一目で知らせられるワッペンが配布されていたり、ジャーナルのシニアエディターと会話する機会が設けられていたりしました。職探しに関するセミナーも連日多く開催されており、必要な人材や働く機会を、参加者が本気で探しにきている雰囲気がありました。個人的には、Talented Twelve 受賞者や Frances Arnold 教授の講演を聴くことができたのも幸運でした。
——様々な国からの参加者との交流はいかがでしたか?良い関係を築けましたか?
佐々木さん: 想像していた以上に素晴らしいメンバーに恵まれ、一生の思い出となりました。人柄がよく、志も近いメンバーと食事したり、飲みに行ったりするのは本当に楽しく、また将来に関する思いや近況を話し合うのは大変刺激的な経験でした。WhatsApp というアプリ (LINE のようなもの) でグループが作られており、今でも参加者同士の情報交換や近況報告、雑談が続いています。
——CAS の参加者に対する姿勢についてお聞かせください。
佐々木さん: CAS からは、このプログラムの価値を高め、今後も続けていくために参加者全員に満足してほしい、という心意気を感じました。スタッフの Peter と Mindy が中心となって私達のお世話をしてくれましたが、二人ともユーモアと優しさに溢れた素晴らしい方で、二人を中心とした CAS スタッフの方々あってこその素晴らしい体験だったと思います。
——本プログラムを経験したことで、佐々木さんご自身の中に変化はありましたか? また今回の経験を、将来どのように生かしていきたいですか?
佐々木さん: 参加者達と交流していく中で、大変刺激を受けました。今回プログラムで学んだ内容は勿論ですが、それ以上に将来を担う同世代の研究者と友人になれたことが、これから活きてくると感じており、大変幸運だったと思います。
——次回プログラムに参加しようと考えている学生・博士研究員にメッセージをお願いします。
佐々木さん: 世界中の素晴らしい若手研究者と友人になるチャンスなので、興味が少しでもあればためらわずに是非応募してみて下さい。2019 年も、Connor や Yoonsu を筆頭に優秀なメンバーが集っていました。また、今年のメンバー構成を見てみると国 (16 カ国)、性別 (男性 15 人、女性 14 人)、専門分野とあらゆる側面から多様性が確保されており、単純な業績順だけで選考が行われるわけでないことは明白です。プログラムの知名度と競争率が急激に上昇している一方で (今年の応募者は 860 人程だったようです)、Peter 曰く日本からの応募者は少ないままのようなので、本当に大きなチャンスだと思います (私にとっても、バイオ分野のバックグラウンド、および日本からの参加という点が幸いしたのだと思います)。嬉しいことに、参加者との雑談で名前が出てきた日本のラボも複数ありました。そこの人たちとも是非友人になりたい、プログラムや学会で会えたら嬉しい、と語る参加者は多かったです。偉大な先輩研究者のおかげで、世界は若い世代の日本人研究者にも興味やリスペクトを持っています。日本からも益々多くの若手研究者が参加し、一緒にサイエンスを盛り上げていけたら嬉しいです。
——そのほかにも強く印象に残ったことなどがございましたら教えてください。
佐々木さん: CAS は、正式には“キャス”ではなく“シーエーエス”と読むらしいです!ですが、CAS 職員もキャスと呼ぶ方が多く、プログラム全期間を通して言い直しが一種のネタになっていました (笑)。
——プログラムに対するご意見・ご要望などありましたらお知らせください。
佐々木さん: 私からの追加の要望は特にありません。この度は大変貴重な機会をいただきまして、誠に有難うございました。
JAICI: どうもありがとうございました。
CAS について
米国化学会 (American Chemical Society (ACS)) の一部門である CAS は、化学の変革力を通じて人々の生活を改善するという ACS のミッションの基に活動しています。科学分野の専門家集団である CAS チームは、110年以上にわたり、公開されているすべての化学情報を同定、集約、整理して、世界中のイノベーションに不可欠な世界で最も価値のあるコンテンツのコレクションを作成しています。
これらは世界中の企業・大学・政府系機関における研究者、特許専門家、ビジネスリーダーにより、イノベーションの計画・創出・保護、および新規市場の予測に活用されています。