研究者にもおすすめ!マルクーシュ構造検索
コラムでは、CAS SciFinder のユーザーの方を対象に、検索に関するお役立ち情報や、ちょっとした豆知識を提供します。今回は CAS SciFinder で行う特許明細書中の一般構造式の検索についてご紹介します。
マルクーシュ構造とは
特許によくみられる一般構造式
マルクーシュ構造 (またはマーカッシュ構造) とは、US特許1506316 を出願した E.A.Markush 氏にちなんで名付けられた化学式のことです。
最初のマルクーシュ特許 US1506316
1923 年の出願当時に Markush 氏が記載したマルクーシュ構造は「化学構造図」ではなく文字でしたが、現在「マルクーシュ構造」と言えば構造図と R グループからなる一般式で表現された化学構造のことを指します。
マルクーシュ構造を用いると、一つの構造図で多数の化合物を表すことができるため特許での化学物質の記載によく用いられているので有機化学系の研究者であれば、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
一般的なマルクーシュ構造
研究者がマルクーシュ構造検索を行うのがおすすめな理由
特許性の検討を含め「詳細な情報検索は、知財部門や情報専門家が行う」という組織も多く聞かれます。
しかし、研究を進める各段階において、研究者自身がテーマの化合物について、きちんと調べることことによって、研究の効率と成果を向上させることが期待できます。また、無駄な研究開発費の抑制にも繋がることでしょう。
CAS SciFinder のマルクーシュ構造データ
特許に含まれる物質情報のすべてを検索したいというユーザーの要望を実現するために、CAS ではマルクーシュ構造をデータベースに格納・検索する手法を開発し、1989 年に MARPAT ファイルを STN でリリース。
現在では、研究者でもマルクーシュ構造検索ができるように CAS SciFinder でも MARPAT ファイルのデータを提供しています。
CAS のマルクーシュ構造データベースが優れている理由
CAS のマルクーシュ構造データベースが優れているのは、化学・特許の常識である暗黙知を踏まえて、正確なデータを収録している点にほかなりません。
CAS には、 "アナリスト" と呼ばれるマルクーシュ構造を入力する専門家がいます。マルクーシュ構造を入力できるのは、アナリストの中でも優れた知識を持ち、長年に渡り抄録や索引を作成した経験を踏まえ、さらに特別な研修を受けた一部の専門家です。
つまり、ヒトが化学・特許の常識である暗黙知を踏まえて、クレームされている化学物質を正確にデータ化しているのが一番の魅力と言えます。その人手による作業は、1980 年代から今日まで変わらず、この瞬間もアナリストは特許を読んで、化学構造を抽出し、データベースに追加していることでしょう。
人間の知識の結晶、それが CAS のマルクーシュ構造データベースが優れている理由です。
対象物質
CAS SciFinder では次のルールに則ってマルクーシュ構造を収録しています。
特許のクレーム中に (*1)
マルクーシュ構造で記載されていた (*2)
有機化合物、あるいは有機金属化合物 (*3)
このルールについて補足します。
*1) 通常は特許請求範囲に記載されているマルクーシュ構造が収録されます。ただし、「特許請求範囲にマルクーシュ構造がない」「発明の詳細な説明中のマルクーシュ構造が特許請求範囲中のマルクーシュ構造より広義」という場合は、例外的に発明の詳細な説明に記載されたマルクーシュ構造が収録されます。
*2-1) (マルクーシュ構造ではない)特定の化学物質は、マルクーシュ構造検索ではヒットしません。特定の構造を持つ化学物質を検索したい場合は、Substances 検索を行ってください。
*2-2) 物質の一部のみを示すマルクーシュ構造や、表形式で置換基のバリエーションが示されている記載、構造図がなくテキストでの記載のみの場合は CAS ではマルクーシュ構造とは見なしておらず収録対象外です。
*3) 低分子有機(金属)化合物以外の物質 (ポリマー、無機化合物等) は収録されていないため、有益な検索を行うことができません。
収録範囲 (国、年代)
マルクーシュ構造検索の結果は、構造単位ではなく、特許ファミリー単位の回答になります。
そのため、ここでは収録範囲として特許国とそれらの特許の年代を収録範囲とします。
- 収録対象年:1961年以降
- 収録対象国:文献のベーシック特許対象国と同じ (参照:Coverage of CAS basic patents by Year)
マルクーシュ構造検索の流れ
① Substances で構造質問式を作図したら、Search Patent Markush にチェックを付けた状態で検索を実行します。
② 条件にマッチしたマルクーシュ構造が記載されている特許が表示されます。
Substances 検索のように、特定の化学物質が回答になるのではなく、マルクーシュ構造検索の場合は「特許」が回答になることがポイントです。
また、CAS SciFinder に収録されているマルクーシュ構造も表示されますが、これらは特許明細書とまったく同一ではなく、独自の構造を収録しています。
検索時のマルクーシュ構造属性は、ヘルプに記載がありますので、気になる方はヘルプを確認してください。
Element Count は LIMITED、マッチレベルは鎖構造は Class、環構造は Atom が自動的に適用され、これを手動で変更することはできません。
詳細については以下の資料が参考になります。
CAS STNext と CAS SciFinder のマルクーシュ構造検索の違い
まとめ
Substances 検索では、CAS RN® が付与された特定の化学物質を検索することができます。
それに加え、マルクーシュ構造検索を行うことで、クレーム中に一般構造図で記載された特許を調べることができます。
他社/自社の特許クレーム範囲中の化学物質をあらかじめ知っておくことは、研究効率の向上にも繋がることではないでしょうか。
・ ・ ・ ・ ・ ・
掲載日 2024 年 6 月 28 日