Reaction Role vs. Reference Role
コラムでは、CAS SciFinder のユーザーの方を対象に、検索に関するお役立ち情報や、ちょっとした豆知識を提供します。本稿では CAS SciFinder の Substances に付与されている Role (ロール) についてご紹介します。
知っていますか?
Reaction Role と Reference Role の違い
CAS SciFinder の化学物質検索結果のフィルタには、同じような内容の Role があり、これらの違いについて悩んだことはありませんか?
Reaction Role と Reference Role
3-クロロアニリンの構造を作図して検索すると、下図の結果が得られます。このとき、画面左側に表示される Filter に注目してください。
Reaction Role と Reference Role があります。Reference Role は項目の数が多く View All をクリックする必要がありますが、展開してみると以下のように同じような Role (化学物質の役割) が並んでいます。
Reaction Role
- Product
- Reactant
- Reagent
- Catalyst
Reference Role
- Preparation
- Reactant
- Reagent
- Catalyst Use
この「違い」、あなたはご存じですか?
Reaction Role と Reference Role の違い
Reaction Role と Reference Role の違いを知るためには、CAS SciFinder 自体が複合的なデータベースであることを理解することが先決です。
CAS SciFinder にログインすると、All、Substances、Reactions、References、Suppliers というメニューが表示されます。
これらのメニューは、実はデータベースを選択するリンクになっていて、例えば "Reactions" のリンクをクリックすると、反応データベースにアクセスし、Reactions 検索の画面が表示される仕組みです。
したがって、CAS SciFinder とは、次の 4つのデータベースを組み合わせたものと言えます。
- Substances (化学物質)
- Reactions (化学反応)
- References (文献)
- Suppliers (試薬カタログ)
いかがでしょう。このように 『複数のデータベースを合体して出来ている』ということを鑑みれば、Reaction Role と Reference Role の違いが想像できてくるのではないでしょうか?
違いのワケを知ろう
CAS SciFinder は 4 つのデータベースの合体版
CAS SciFinder が複数のデータベースから成り立っているのには、歴史的な背景があります。米国化学会の情報部門である CAS は次のような順にデータベースの製作やサービスの提供をはじめました。
- 1907 年・・・ Reference データベース (CAplus) と Substaneces データベース (REGISTRY) の前身である Chemical Abstracts (冊子体) の製作を開始
- 1980 年代・・・ Reaction データベース (CASREACT) の製作を開始
- 1990 年代・・・Suppliers データベース (CHEMCATS) の製作を開始
- 1995 年・・・これらのデータを統合した研究者向け情報検索ツールとして、CAS SciFinder をリリース。
つまり、
Reference Role フィルターに表示されるのは、文献データベース (Reference) 由来の化学物質の役割
Reaction Role フィルターに表示されるのは、反応データベース (Reaction) 由来の反応関与物の役割
Reference データベースと Reaction データベースの違い
それでは、Reference データベースと Reaction データベースの違いに注目してみましょう。
Reaction データベースに収録されている文献はすべて Reference データベースに包括されているため、違いなんてないんじゃないか?と思われるかもしれませんが、次のように異なっています。
CAS Reaction | CAS Reference | |
---|---|---|
概要 | 有機化学反応情報のデータベース | 文献情報のデータベース |
収録年 | 1840 年以降 | 1808 年以降 |
収録方針 | CAS Reference の文献から合成的に意義のある有機化学反応を収録している | 化学分野の文献を収録している |
Role の対象物質 | 反応に関与する物質に Role が付いている | 文献や特許の主題に関連する物質に Role が付いている |
Role の種類 | 5 種類 - Product - Reactant - Reagent - Catalyst - Solvent |
約 50 種類 (年代変遷あり) - Analytical Study - Biological Study - Combinatorial Study - Nanomaterial - Preparation - Process ー Reactant or Reagent - Uses など |
ポイントはいつの時代でも原報!
次に反応情報に注目して考えてみましょう。ここでは、原報である文献や特許に、A という物質から B を経て、最終的に物質 C を合成することが記載されていたとします。
このような文献を読んだ CAS のアナリストが主題に関する物質は A と C と判断した場合、収録に違いが現れます。
Reference データベースに収録されるのは、反応物 A と 生成物 C
Reaction データベースに収録されるのは、全反応関与物質 (A~Z)
もちろん、著者の記述によっては、Reference データベースに生成物 C のみ収録されるケースもあります。一方で、試薬 E や触媒 X が収録される場合もあります。
Role の選択、結局どうすればよいの?
最初の 3-クロロアニリンの検索結果のように、Reaction Role と Reference Role の 2 種類のフィルターが表示されて迷うのは、化学物質を検索したときだけです。フィルターに表示される回答数も参考にしながら、Role を選びましょう。
有機化学分野の合成文献を検索したい場合は Reaction Role
無機・ポリマー分野など有機化学分野以外の文献や、工業的反応 (スケールアップなど) を検索したい場合は Reference Role
通常は、反応物、試薬、溶媒、触媒を検索する場合や、中間体を検索したい場合は Reaction Role を選択するとよいと思います。
生成物を指定して、古い年代まで遡及検索を行う必要がある場合は、Reference Role を選択するのがおすすめです。
まとめ
化学物質の検索結果を Role フィルターを使って絞り込むと、選択した Role によって対象データベースが限定されるため最終的に得られる文献が異なります。
CAS SciFinder が、複数のデータベースの集合体であることを知って、うまく情報を入手してください。
掲載日 2024 年 3 月 12 日