プラスチックリサイクル技術について調べてみよう
プラスチックの普及とごみ問題
我々の生活のあらゆる場面で用いられているプラスチック。軽くて耐久性があり、錆びたり、腐ったりせず、加工性に優れており、大量生産に適しているため第二次世界大戦後、その市場は急速に拡大してきました。
一方、プラスチック製品が普及するということは、ごみとして排出する量も増えることになります。家庭では燃えるごみに混ぜて出しており、それを清掃工場で燃やしていましたが、やがて各地の清掃工場が異常をきたすことになり、1960年代になって大きな社会問題となりました。
プラスチックを多く含む製品であるペットボトルのリサイクルは、1993年にペットボトルリサイクル推進協議会が設立され、本格的にスタートしました。現在では、85%以上ものペットボトルがリサイクルされるようになり、今日ではペットボトルは資源であるとの考え方が定着しています。
プラスチックのリサイクル手法
プラスチックごみの削減、石油資源の有効利用のため、プラスチックのリサイクル技術が盛んに研究され、実用化されてきました。
資源として収集された廃プラスチックのリサイクルは、次の3手法に大別されます。(注*1)
- マテリアルリサイクル:廃プラスチックを原料としてプラスチック製品に再生する手法
- ケミカルリサイクル:廃プラスチックを化学的に分解し、化学原料に再生する手法
- サーマルリサイクル:廃プラスチックを固形燃料にしたり、焼却して熱エネルギーを回収する手法
プラスチックリサイクル技術に関する出願動向
マテリアルリサイクル (解重合を伴わない物理的リサイクル) では、回収原料の汚染状態に由来する品質低下が問題となっています。また、汚染が酷い廃プラスチックはマテリアルリサイクルが難しく、技術の進展とともにマテリアルリサイクルの限界が顕在化してきました。
高純度のポリマーが得られるケミカルリサイクルは、廃プラスチックを原料まで戻すため、異物や汚染があってもリサイクルできる点がメリットです。一方で、リサイクルの際に発生する二酸化炭素や、コスト、設備投資の問題とともに、プラスチックに含まれる添加物の処理技術が課題になっています。
プラスチックリサイクル技術に関する出願件数の年次推移
ケミカルリサイクルについては、回収率や回収モノマーのさらなる純度向上を目的として、不純物 (副生成物) を低減するための様々な技術が出願されていますので、CAS SciFinder でプラスチックリサイクル技術の特許出願件数を見てみましょう。
CAS SciFinder では、学術論文だけでなく特許も同時に検索できるのが特長です。フィルター (ここでは Document Type) を用いることで、即時に特許文献に限定することができるので、今回はプラスチック (ポリマー) のリサイクル技術に関する特許を検索して、発行年ごとの件数推移を解析します。
その結果、出願件数は、1990 年代から増加しはじめ、2000 年代に増減はあるものの、現在でも増加傾向にあることが分かります。
ポリマーの種類別出願件数
プラスチックリサイクル関連の出願について、直近 10 年についてポリマーの種類別の件数推移を見ると、いずれの年においても、ポリエステルに関する発明が最も多く出願されていました。
ポリエステルのリサイクルに関する特許出願について用途を解析したところ、ボトルや繊維、容器包装材料など、リサイクルについて身近によく聞かれる品目が大部分を占めていることが分かりました。
日本企業の取り組み
2000 年以降のプラスチックリサイクル関連の出願について、5 年ごとの出願人上位 5 社をまとめたのが下表です。
2000 年代は現在の三菱ケミカル株式会社などの日本企業が上位を占めていましたが、2011 年以降になると、中国や欧米の外国企業による出願が増加しています。
そこで日本企業によるプラスチックリサイクル関連の出願内容を把握するために、2012 年以降のポリマー種類別の件数を下図にまとめました。その結果、ポリエステル関連の出願が多い中で、例えばクラレはポリオレフィンやポリビニルアセタールの件数が多いなど、企業ごとに特徴が見られるようです。
ポリカーボネートリサイクル時の不純物低減技術
今回は、さらにポリカーボネートの化学的リサイクルに関する特許に注目してみます。ポリカーボネート樹脂は透明性や耐衝撃性、耐熱性に優れており、屋外での使用も可能なので自動車のヘッドランプや内装材、建築資材にも使われています。
ポリカーボネートは、アルコールやアルカリ存在下で、対応するジオール (例えばビスフェノール A) と、ジアルキルカーボネートまたは CO2 へ分解することができます。しかし、高純度のモノマーを高収率で製造できる技術の実用化のためには様々なハードルがあります。
ここでは、ポリカーボネートのリサイクル技術に関する特許のうち、不純物 (byproduct) に関連するものを CAS SciFinder でまとめてみました。解重合反応の条件や、反応生成物の分離精製方法について、さまざまな改良方法が見出されているようです。
リサイクルの真の目的
近年、地球規模の問題として大きく取り上げられている海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化問題、諸外国の廃棄物輸入規制などの幅広い課題に対応するため、プラスチック資源循環促進法が 2022 年 4 月 1 日から施行されました。(注2)
しかし、リサイクルはそのこと自体が目的ではなく、石油などの限りある天然資源の消費を抑制し、環境への負荷をできる限り低減することが真の目的です。(注3)
まとめ
これまで実用化が難しかった廃プラスチックのケミカルリサイクルも、いずれ実現することでしょう。
世の中の技術革新のスピードは速いので日々の情報収集はとても大事です。そんな時に CAS SciFinder を使ってみてください。今回の様に最新のプロジェクトや、ある企業の意外な側面など、新しい知見が得られるかもしれません。
参考文献と参考サイト
注1) 一般社団法人 プラスチック循環利用協会, 2023, ”プラスチックとリサイクル”, 一般社団法人 プラスチック循環利用協会ホームページ (2023年12月7日取得, https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf3.pdf)
注2) 環境庁, 2023, ”プラスチックにかかわる資源循環の促進等に関する法律の普及啓発ページ”, 環境庁, (2023年12月7日取得, https://plastic-circulation.env.go.jp/)
注3) 一般社団法人 プラスチック循環利用協会, 2023, ”プラスチックリサイクルの基礎知識 2023”, 一般社団法人 プラスチック循環利用協会ホームページ (2023年12月7日取得, https://www.pwmi.or.jp/pdf/panf1.pdf)
掲載日 2023 年 12 月 8 日