ケミアブの話
コラムでは、CAS SciFinder のユーザーの方を対象に、検索に関するお役立ち情報や、ちょっとした豆知識を提供します。本稿では CAS SciFinder の前身であるケミアブについてお話しします。
化学文献の代表 Chemical Abstracts (ケミカル・アブストラクツ)
ケミアブについて知ろう
Chemical Abstracts (通称ケミアブ、ケミカル・アブストラクツ、CA) は 1907 年に創刊された化学・化学工学分野の抄録誌です。
世界中の様々な学術雑誌の記事や特許のエッセンスを、1冊の本にまとめることで、「ケミアブだけ見れば世界の化学文献を調査した」といえるようになり、当時の研究環境は大きく変わりました。
ケミアブを製作し、発行したのは、現在、米国化学会の情報部門である CAS (シーエーエス)。当時は、Chemical Abstracts Service と呼ばれていた機関です。
冊子体 「ケミアブ」 の発行は約 100 年で終了しましたが、CAS の専門家による抄録・索引作成は現在まで続いており、2023 年 8 月時点では、6,163 万件以上の文献情報をデータベース (CAplus) で調べることができます。
週刊誌だったケミアブ (注1)
ケミアブを図書館の書棚で見たことがある方は、数メートルに渡り、ずらりと同じような表紙が並ぶその姿に、大書籍シリーズのように感じたかもしれません。
しかし、ケミアブの構成はとてもシンプル。主体は「本誌」とも呼ばれる 「Weekly Issue」で、それ 以外はすべて索引 (Index) です。
本誌 (Weekly Issue)
本誌 (Weekly Issue) がケミアブの本体です。世界中の科学技術文献に報告された、化学分野の新しい知見や発明に関する抄録を収録しています。
CAS では収録対象となる科学技術文献を世界中から取り寄せており、その全文を専門スタッフがきちんと読んで、理解した上で、抄録を作成しています。各抄録には通し番号 (CA 抄録番号) が付けられ、原報の主題によって最も相応しいセクションに掲載されます。
ケミアブのセクションは、化学の分野によって 80 に分類されています。ある週 に奇数号を発行すると、翌週には偶数号を発行する、というスケジュールで本誌は毎週発行されていました。
CA セクションによる抄録の分類は今でも続けられており、CAS SciFinder の絞り込み「CA Section」で検索することもできます。
抄録に付与される CA 抄録番号は、通し番号の前に巻番号を付けた形式です。例えば 123 巻の抄録番号 45678 であれば、"123:4568"と表記されます (冊子体では抄録番号の後ろにアルファベットがついていますが、これはチェック用の文字です。)ケミアブがすべてデータベース化され、巻末索引 (Volume Index) が発行されなくなってからも、ケミアブの抄録には個別の抄録番号がつけられています。
CAS SciFinder の検索ボックスに、「Search by Keyword .... , CAN ...」と表示されているのにお気づきでしょうか? CAN は CA 抄録番号 (CA Accession Number) のことで、現在でも検索に利用することができます。
CA 本誌の号末には、著者名、特許番号、キーワード索引がついています。キーワード索引は、化学物質や一般事項に関する文献を探すためのものですが、統制語ではなく自由語で収録されています。
巻末索引 (Volume Index)
ケミアブは毎週1冊発行されるため、一年間分の文献をまとめて調査するには 52 冊の本誌を読む必要があります。その作業を軽減化するため、1 年間/半年間の索引をまとめたものが Volume Index です。索引される語は、原報から抽出された索引項目であり、これらを網羅的に一括で調べられるように、索引には統制語が用いられました。
巻末索引には、以下のような種類があります。(年代により異なります)
- General Subject Index (GSI:一般事項索引)
- Chemical Substance Index (CSI:化学物質索引)
- Formula Index (分子式索引)
- Index of Ring Systems (環系索引)
- Author Index (著者名索引)
- Patent Index (特許索引)
今日でも、これら巻末索引に対応する情報が、CAS SciFinder の Concepts、Substances などに収録されています。
索引のための索引 「Index Guide」
ケミアブ本誌の抄録を効率よく探すために、巻末索引 (Volume Index) が作成されました。しかし、巻末索引中の用語には、索引項目が散らばることを防ぐために、統制語が使われたため、調査したい概念や化学物質に対応する統制語を知る必要があります。
統制語が用いられる General Subject Index と Chemical Substance Index を使うために、1968 年に Index Guide が発行されました。Index Guide は、化学文献中で使われた化学物質や概念の用語が、巻末索引中のどの統制語に対応するかを調べるためのガイドです。
- 化学物質の慣用名や商品名から、CAS の正式な化合物名 (CA 索引名) や CAS RNⓇ (CAS 登録番号) が分かる
- 概念のキーワードから、General Subject Index で使われている見出し語 (統制語) を調べることができる
- General Subject Index や Chemical Substance Index の索引方針や、化学物質命名法の説明がある
つまり、「索引のための索引」、それが Index Guide です。
今日では CAS SciFinder の CAS Lexicon で全年代の統制語を調べることができます。
索引をまとめた索引 「Collective Index」
ケミアブ本誌の抄録を効率よく探すために発行される巻末索引 (Volume Index) ですが、対応する期間 (巻) が限られているため、長期間の過去文献を調べるには、対応する全期間の Volume Index を使う必要があります。例えば、1997 年から 2001 年の 5 年間であれば、V126~V135 の 10 巻を同じ索引項目から調べます。
このような長期的な調査を効率よく行えるように、10 巻分 (5 年間) をまとめた累積索引 (Collective Index:CI) が発行されていました。Collective Index があれば、前述の 1997 年から 2001 年の期間を 14CI ひとつでまとめて調査できます。
5 年間ごとに索引をまとめるようになったのは 6CI (1957~1961 年) 以降で、1956 年以前は 10 年間の情報をまとめた索引、Decennial Index (DI) が発行されていました。
ケミアブ本誌の情報はここに注意!
略語・頭字語
創刊当時の Chemical Abstracts は本でしたので、印刷スペースを節約する必要がありました。その問題を解決するために、様々な略語が使用されました。例えば、preparation は prepn. 、photoxidation は photoxidn. と記載されます。
ケミアブがデータベースになり、CAS SciFinder の一部になった現在であっても、抄録データ中に略語が出現するのはこのような理由によるものです。
略語の一覧は、ケミアブの各巻の 1号のはじめに掲載されています。 Web で参照する場合は、CAS Standard Abbreviations & Acronyms をご覧ください。
CAS Standard Abbreviations & Acronyms
略誌名
上述した略語と同じ理由で、抄録作成の元となった原報の掲載誌名は略誌名 (省略された表記) で記載されています。
ケミアブの抄録を参照し、原報を入手したいと判断した場合は、正式な雑誌名を知る必要があります。そのような時に便利なのが、CAS Source Index (CASSI) です。CASSI へは以下のリンクからアクセスできます。
CAS Source Index (CASSI) Search Tool (注4)
CASSI Search Tool では、略名以外にも、CODEN、ISBN または ISSN から正式な雑誌名を調べることができます。
まとめ
ここまで、CAS SciFinder (サイファインダー・エヌ) の前身であるケミアブについて説明しました。
ケミアブの抄録とそれを構成する「索引」のルールは、今日の CAS SciFinder に受け継がれています。つまり、ケミアブの冊子を見たこともない方も、ケミアブを詳しく知れば、CAS SciFinder 独自の特徴を活かした検索ができるようになるでしょう。
ポイント: ケミアブを知ると CAS SciFinder を深く理解できる
参考文献と参考サイト
注1) 化学情報協会, 1990, ”Chemical Abstracts の使い方”
注2) CAS, 2023, ”The Sections of CA”, CAS:A division of the American Chemical Society, (2023年8月14日取得, https://www.cas.org/support/documentation/references/ca-sections)
注3) 化学情報協会, 2000, ”続 ケミカル・アブストラクツの活用法”
注4) CAS, 2023, ”CAS Source Index”, CAS:A division of the American Chemical Society, (2023年8月14日取得, https://cassi.cas.org/search.jsp)
掲載日 2023 年 8 月 14 日